「近くにいる」は安心ではない──認知症行方不明の“リアル”と制度で支える現場づくり

こんにちは。医療・薬局・介護の現場で働く皆さまのサポートを続けてきた立場から、今回は「認知症の方の行方不明と安全対策」について考えてみたいと思います。

熊本県で起きた事例。認知症の疑いがあった母親を自宅からわずか3キロ余りの用水路で亡くした男性の経験が、報道により社会に大きな示唆を与えています。

2日間にわたる懸命な捜索の末、発見されたのは家族もまったく想定していなかった“身近な水辺”でした。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250618/k10014834161000.html


77%が「5キロ圏内」で見つかっているという現実

警察庁が6月に発表したデータによれば、認知症やその疑いのある行方不明者のうち、亡くなった方の77%以上が、行方不明になった場所から半径5キロ以内で見つかっているといいます。

つまり、遠くへ行ってしまったのではなく、実は「自宅から目と鼻の先」で力尽きていたというケースが非常に多いのです。

そして、その発見場所として最も多いのが「水辺」。
河川、側溝、用水路――これらは一見して危険に見えないにもかかわらず、認知症の方にとっては“命を落としかねない場所”となり得ます。


医療・介護・薬局の現場でも「水辺リスク」は他人事ではない

薬剤師や医療スタッフとして関わってきた経験上、認知症の患者さん・利用者さんは非常に個人差が大きく、判断力や行動パターンも日々変わります。

ある日突然、ふらっと玄関から出ていき、「慣れ親しんだ川沿いの道に行きたかった」といった行動を取るケースもあります。
こうした状況に対応するためには、“想定の外”を想定しておく力が求められます。

介護施設では「夜間の無断外出」が起こり得る前提で、施設周囲の危険個所(用水路・池・道路など)を職員間で共有するマップをつくっていた現場もありました。

このような事前準備の有無が、実際の捜索や安全確保に大きく関わってきます。


制度を活かした体制整備が“命を守る仕組み”になる

介護分野の処遇改善加算では、「職場環境等要件」として、職員が安心して働けるように事故・感染症・災害などへのリスク対応マニュアルや研修の整備が推奨されており、加算申請時に実施内容を報告する仕組みになっています。

こうした体制整備は、直接的には「職員の労働環境改善」を目的としていますが、
結果として、認知症の方の安全確保や、行方不明リスクへの組織的な対応にもつながるものです。

医療機関でも、ベースアップ評価料の評価対象に含まれる「働きやすい環境づくり」には、職務分担の明確化や研修機会の提供、職員の安心感を支える体制整備が重要視されており、認知症対応力の強化もその一環と考えるべきでしょう。


地域と“顔の見える連携”を

京都市で始まった「高齢者110番の家」の取り組みは、まさに地域に支えられる認知症ケアの好例です。
これは、従来の「子ども110番の家」の高齢者版とも言えるもので、協力店舗や住民が「困っている高齢者を受け入れる場所」として旗を掲げるもの。

医療や介護の現場でも、「この患者さんは徘徊の恐れがある」「最近、帰り道を忘れることがあった」といった情報を、地域包括支援センターや薬局、訪問看護、近隣クリニックと日常的に共有する仕組みが、命を守るネットワークにつながります。


HOLOSが支援する“仕組みと現場のつなぎ方”

私たちHOLOS(ホロス)社労士&行政書士Laboでは、認知症対応を含む労務管理・制度活用の支援に取り組んでいます。

「ルールをつくって終わり」ではなく、
「そのルールが現場で本当に機能するか」まで見通して、制度設計・研修整備・地域連携の構築を支援しています。


行方不明になった認知症の方が、たった数キロ圏内で命を落とす。
これはごく身近にある現実です。

だからこそ、制度×現場×地域の三位一体で、
“誰もが安心して暮らせるまち”をつくっていく必要があると強く感じています。

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